MADE IN TAMRON 人と技でつなぐタムロンのものづくり
トップ > タムロンのものづくり > ものづくりの現場を訪ねる > 第8回 どこで作っても、同じ品質、同じ性能のレンズをめざす
- 第1回
MADE IN TAMRON - 第2回
タムロンレンズが大切にしていること - 第3回
描写のフィロソフィー - 第4回
交換レンズができるまでを俯瞰する - 第5回
交換レンズのもう1つの重要パーツ - 第6回
光学ガラス材から
写真レンズに仕上げる - 第7回
中国・仏山タムロン工場について - 第8回
どこで作っても、同じ品質、
同じ性能のレンズをめざす - 第9回
工場で交換レンズを作っている人たち - 第10回
デジタルカメラにとって良いレンズとは
田中 希美男たなか きみお
多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
ホームページは
『http://www.thisistanaka.com/』
どこで作っても、同じ品質、同じ性能のレンズをめざす
設立20年になる仏山タムロン工場は、マザー工場である青森3工場とほぼ"肩を並べるほど"に成長している。そのことは前回のブログでもお話しした。
ただし、一部の重要パーツや処理(たとえば金型、非球面GMレンズやナノ構造のレンズコーティング)についてはマザー工場に頼っているところもあるが、金型を使っての樹脂成形、精密金属切削加工、レンズ研磨、電子部品の部組み、そして交換レンズの本組みは仏山タムロン工場でおこない、ダイレクトに世界中に製品を出荷している。
交換レンズの組み立て(部組み、本組み)は、製品の仕上がり品質に直結する大切な工程である。ところが、指定されたとおりに部品を組み付け、固定しただけではタムロンが目標とする製品に仕上げることはできない。プラモデルを組み立てているのとはわけが違う。
部組みとはサブ工程ともよばれ、比較的小さなパーツ類をあらかじめユニットに組み上げておくこと。本組みとはレンズ組み立てのメイン工程のことで、部組みしたユニットを指定通りに組み合わせて完成品にする工程である。
ここがレンズ組み立てのキーポイントでもあるのだが、レンズ組み立て(本組み)の途中では、何度もチェック(検査)を繰り返し、必要なら調整をし直し、ときには、いったん組み上げたレンズ群を外して丁寧に調整してからふたたび組み付けるということもやる。高い品質、優れた性能を求めるなら決しておろそかにできない作業がたくさんある。
まず、下のチャート図をご覧いただきたい。交換レンズの組み立て工程とその流れを大まかに示したものだ。
「サブ工程(部組み)」では、研磨を終えた光学レンズを「レンズ群」として組み付けたり、小さな電子部品を組み合わせてAFユニットやVCユニットなどに仕上げたり、絞り機構を組み付けてユニットにしたり、交換レンズを構成する機構部品づくりをする。
あらかじめ作り上げられたいくつかの必要部品を集めて、ようやく交換レンズに仕上げる本組みをする。ここからが交換レンズづくりのメイン工程となる。
ここでメイン工程での組み立ての順番を、簡単に説明しておきたい。
多くの交換レンズはつぎのような手順で組み上がっていく。私が仏山タムロン工場に見学に行ったときに、メイン工程で組み上げていた「16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO(Model B016)」と、「SP 24-70mm F/2.8 Di VC USD(Model A007)」の2本のズームレンズを例にした。ざっと流し読みしていただければいい。
①各レンズ群の組み付け(レンズの基本となる外鏡枠の中に各群をはめ込み仮固定する)
②絞り機構を組み付け(レンズ群とセット)
③VCユニットを組み付け(レンズ群とセット)
④フレキシブル基板を取付け
⑤ズームリング/ピントリングの組み付け
⑥ピエゾドライブ(PZD)または超音波モーター(USD)ユニットの組み付け
⑦メイン基板(円形基板)を後部に取付け
⑧レンズ鏡筒最後部を取付け
⑨AFやCVの切り替えスイッチを組み付け
⑩マウントを取付け
以上の①から⑩までが交換レンズ(ズームレンズ)の組み立てで、これで"いちおう"交換レンズとしてのカタチが整う。しかし、ここからがメイン組み立て工程の本番、本命ともいえる検査と調整の工程が控えている。
この検査と調整こそが高品質のレンズを作り上げるための、もっとも重要な工程である。どの検査も調整も、大変にデリケートで精密。専用の調整機器(タムロンもそうだが各メーカーとも自前で開発して使っているものが多い)を使用して検査や調整をする工程がたくさんある。以下、大まかな検査、調整工程。
①フランジバック(FB)の調整 ━━ 正確な無限遠にピントが合わせられるようにFB(マウント面からセンサー面までの距離)を調整する
②光軸調整 ━━ 調芯(ちょうしん)ともよばれる大変に重要な調整工程、組み付けた各レンズ群の芯が正しく1本の光軸に合致しているか検査、もし傾いて芯がずれていれば片ぼけの原因ともなり、必ず正確に合わせ直す
③MTF検査/調整 ━━ 一般的には専用のMTF検査器でチェックして、調整幅が書き込まれたメモを見ながらレンズ群を外したり、ワッシャを加えたりして調整する、ここも重要な工程
④VC調整、AF調整 ━━ 手ブレ補正(VC)とAFが所定の基準通りに作動するか検査する、必要なら微調整をおこなう
⑤カメラ検査 ━━ 対応のカメラボディにレンズをセットして基本操作をおこなって不具合がないかチェックする
━━ この後、ズームリングのラバーや化粧リングを取り付けるなど「外装」を整える。
⑥フォーカス/ズームトルク検査 ━━ MFでのフォーカス(ピント)リングの操作感、ズーミングして回転トルクやゴリゴリ感などがないか慎重にチェック、感覚的な検査なので経験豊富なベテランがおこなう
⑦内観・外観検査 ━━ 最終検査である、レンズ内のゴミのチェックから外観まで徹底的に目視検査をする
━━ 以上の検査と調整を終えてほぼ完成品となる。その後、シリアルナンバーの刻印、レンズキャップやレンズフードなどをセットして梱包作業に移る
メイン工程での交換レンズの組み立てと検査、調整の解説をしたが、実はこれ以上に細かな検査や調整の工程が含まれている。ひとつの作業ごとに(組み立て工程も検査工程も)エアーダスターを使って丁寧にゴミやほこりを取り除いて、次の行程に移すようにしている。むろん、組み立て、検査をする作業場はクリーンルームになっている。
私は仏山タムロン工場でのそんな作業を眺めていて、「ソコまでやるのか」と感心させられたことが何度もあった。
こうした組み立て、検査の工程は、国内の青森工場(弘前工場)でも同じようにおこなわれていて、その方法やシステムをそっくり仏山のタムロン工場でもやっているという。タムロンというブランド名の付いたレンズを(それがどこで作られようが)責任をもってユーザーに届ける、そのための徹底した品質管理と性能確保なのだ。
だからこそ「タムロンのレンズはどこで作っても同じ品質、同じ性能の製品」になるわけだ。
次回のブログでは、仏山タムロン工場でレンズ製造にかかわっている人たちの人物紹介などをしながらレンズ作りの様子を見直してみようと思う。どうぞお愉しみに。
SP35mm F/1.8 Di VC USD Model F012)、絞り優先オート(F/5.6、1/60秒)、マイナス0.3EV露出補正、ISO100。
田中 希美男たなか きみお
多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
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