MADE IN TAMRON 人と技でつなぐタムロンのものづくり
トップ > タムロンのものづくり > ものづくりの現場を訪ねる > 第4回 交換レンズができるまでを俯瞰する
- 第1回
MADE IN TAMRON - 第2回
タムロンレンズが大切にしていること - 第3回
描写のフィロソフィー - 第4回
交換レンズができるまでを俯瞰する - 第5回
交換レンズのもう1つの重要パーツ - 第6回
光学ガラス材から
写真レンズに仕上げる - 第7回
中国・仏山タムロン工場について - 第8回
どこで作っても、同じ品質、
同じ性能のレンズをめざす - 第9回
工場で交換レンズを作っている人たち - 第10回
デジタルカメラにとって良いレンズとは
田中 希美男たなか きみお
多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
ホームページは
『http://www.thisistanaka.com/』
交換レンズができるまでを俯瞰する
新しい交換レンズが生まれるまでには、長い日数をかけて、多くの人たちと、たくさんの部門を経ていく。大別すれば、「企画」 ⇒ 「設計」 ⇒ 「検査」 ⇒ 「製造」の4つ大きな部門がある。タムロンの交換レンズも、必ずこのルートを通って製品として完成する。
「どんな交換レンズ」をユーザーに提供するか。
レンズ作りの開始は市場調査から始まる。
ユーザーがいま望んでいる交換レンズとは、どんなスペックのレンズを作ればユーザーに受け入れてもらえるか。そうした情報をベースにして、レンズの機能、性能、価格、発売時期などを考慮しながら複数の「次期レンズ案」が考え出される。
そして、役員も含めたタムロンのおもだった責任者が集まった商品企画会議が始まる。そこに「次期レンズ案」が提出される。スペック、性能、価格、生産効率などについて、再度、慎重に議論を重ねてようやく「レンズ製品化」が決定し、正式に開発スタートとなる。ここでレンズ全体のスペック、販売価格などのレンズ概要がほぼ決まる。
まず、下に掲載したチャート図を見てほしい。
交換レンズが生まれるまでの、ごく大まかなルートを示したものだ。今回は、このチャート図に沿って、企画から製品になるまでの「タムロンレンズ作り」の順序を俯瞰的に解説していこう。
新しいレンズを製品化するにあたって、企画段階では「5つの相反する条件」のバランスを最適にとらなければならない。レンズの新製品企画でもっとも重要なポイントでもある。この検証をおろそかにすると、ユーザーに「響く製品」にはなりにくい。
・ ユーザーターゲット
・ コスト(生産コスト、販売価格)
・ 描写性能
・ 機能
・ 大きさ、重さ
製品のユーザーターゲットは初心者向けなのかベテラン、プロ向けなのかを決める。それによって、性能も機能も価格も違ってくる。
描写性能を最優先するなら、価格は高くなるし、大きく重いレンズになることは覚悟しなければならない。性能(写りの良さ)と機能(AFやVC(手ブレ補正))を盛り込みながらリーズナブルな価格のレンズとなると、高性能で高価格なレンズとは違った意味で難易度は高くなる。設計側にも生産側(工場)にも負担がかかる。しかし、設計者や工場ががんばって少しでも低価格になるような製品にすれば、ユーザーに喜んでもらえることは間違いない。
新レンズを企画して製品化決定までには、この5つの条件のバランス取りがもっとも難しいとも言われている。それがチャート図に示した①の部門の仕事だ。
製品化が決定すると、レンズの設計が開発部で始まる。それがチャート図の②に示した部門である。
レンズ設計をおこなう開発部には、大きく分けて4つの設計部がある。そこでは商品企画会議で決まった「レンズ」の目標値を睨みながらレンズの設計をおこなう。
「光学設計」とは、数百種類あるといわれている光学ガラスをいかに効率よく選び、配置し、組み合わせた設計図面を作る。理想的な描写性能のレンズを作り上げるかの根幹となるところ。
光学設計と同時に、「機構設計」は、配置された光学ガラスを固定したり、可動レンズ群がスムーズに動くように鏡筒(鏡枠・レンズ枠)設計したり、AFやVCなどの機構部の設計をする。
AFやVC(手ブレ補正)やカメラボディとの情報のやりとりなど電気通信関係を一括して管理する部門。これが「電子設計」の仕事である。
さらに、そうして設計されたレンズ枠や部品類が実際に工場で想定通りに製造、組み立てられるよう製造工程を設計するのが「生産技術」(検査、調整機器の設計もおこなう)で、レンズ組み立てでとても重要な部署でもある。
SP 35mm F/1.8 Di VC USD (Model F012)、絞り優先オート(F/8、1/40秒)、ISOオート(ISO6400)。
28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010)、絞り優先オート(F/8、1/50秒)、マイナス0.3EV露出補正、ISOオート(ISO10000)。
昔のレンズの設計は、光学設計を終えたら鏡筒/機構設計、そして生産現場(工場)へと一方的に垂直方向に流れていった。だが、いまはそんな"古風な"設計スタイルでは高画素デジタルカメラに適応した優れたレンズは生み出せない。
光学設計が始まると同時に、並行して鏡筒や機構部品、電子部品などの設計、生産技術も始まり、一体渾然としてレンズ設計が進んでいく。それぞれの担当者がお互いに、譲歩したり、一歩も引かなかったりしながら完成に向かっていく。垂直型設計から水平型設計のスタイルになっている。
設計が進み、ほぼ全体の方向性も決まってくれば、必要に応じて製品の試作が始まる。このあたりから品質保証部が本格的に活躍する。「品質」の良し悪しを決定するキーとなる部門で、それがチャート図の③にあたる。
じつは品質保証部の仕事は製品の設計がスタートしたときから始まっていると言ってもいい。たとえば小さな部品ひとつにしても、それがタムロンの品質に合格しているかどうか徹底的に検査していく。もちろん、協力工場から納品されるパーツ類もチェック対象になっているし、使用されているどんな小さな材料でも、それが環境に影響を及ぼさないかどうかの化学的検査も徹底的におこなう。
試作レンズができあがると品質保証部がありとあらゆる面から検査する。性能チェックはもちろん、耐久性、操作性、動作の様子などを実写テストしながら徹底的にチェックする。当初の設計値、設計目標に達しているかどうかの評価も徹底的におこなう。
そうして「合格」となれば、つぎに工場で実際に組み立てライン上での「量産試作」がおこなわれる。できあがった量産試作レンズについては、工場内の品質保証部と本社の品質保証部が別々に再検査をする。問題なし、となってようやく製品の「量産」が始まる。
チャート図の④にあたるところだ。
交換レンズの「重要部品」は、いうまでもなく光学ガラスレンズ群。しかし交換レンズは光学ガラスレンズ"だけ"でできあがっているわけではない。光学レンズを固定する鏡筒のほか、AFや手ブレ補正(VC)などの電子部品などさまざまな部品もある。
そこで、次回のブログではタムロン交換レンズの中で光学ガラスレンズと同じくらい大切な部品であるレンズ鏡筒(鏡枠)などについてご紹介する予定だ。
SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD (Model F017)、絞り優先オート(F/4.5、1/100秒)、マイナス0.3EV露出補正、ISOオート(ISO140)。
田中 希美男たなか きみお
多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
ホームページは
『http://www.thisistanaka.com/』