MADE IN TAMRON 人と技でつなぐタムロンのものづくり

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田中 希美男たなか きみお

多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
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交換レンズのもう1つの重要パーツ

   優れた描写性能を備える交換レンズであるためには光学設計技術が重要であることはいうまでもない。それゆえ、ややもすると光学設計者だけが脚光を浴びることも多くあり、光学設計者はレンズの良し悪しを左右するキーマンだ、というふうに見られがちだ。
   しかし、私たちが普段使用する交換レンズのことを考えるとき、ただ光学設計が良ければいい、というものでもない。

   光学設計者が図面で指示した通りにレンズを研磨して光学レンズに仕上げる技術ももちろん大切だが、その光学レンズ群をしっかりと保持させて、スムーズに動く鏡筒(鏡枠・レンズ枠)の設計の重要さを見逃してはいけない。
   さらに、AFや手ブレ補正(VC)などのシステムや電子機器部品、それらを制御するソフトウエアも優れていないことには「良い交換レンズ」であるとは言えない。

   最新の交換レンズには、AFユニットや手ブレ補正(VC)ユニット、絞り機構ユニット、それらを制御するためのICや電子基板類などが、狭いスペースにぎっしりと詰め込まれている。重要なユニットや部品が光学レンズ群とともに、レンズ鏡筒内にコンパクトに配置しなければならない。
   組み込んだパーツ類は決して緩んだり外れたりしないように部材や形状を考え、さらにスムーズに動作するように細心の注意を払いながらレンズ鏡筒(鏡枠)を設計していく必要がある。

   その設計全般を担っているのが、タムロンでは機構設計とよばれる部門である。メーカーによっては枠設計とかメカ設計とよぶところもある。
   今回は、このタムロン機構設計の仕事の中の「一部」を紹介したい(なお、AFやVCなどのタムロン電子設計については機会があれば項をあらためてご紹介したい)。
 

01

   「16-300mm F/3.5-6.3 Di Ⅱ VC PZD MACRO (Model B016)」の構成レンズ群の配置をイラストにした構成図(左)と、レンズを断面カットした実物モデル(右)である。左のイラスト化したレンズ構成図を見ると"隙間だらけ"のように見える。しかし実際は、右の写真のように複数に重なった鏡筒やAF、VCなどのユニットがびっしりと組み込まれている。ズーミングするとレンズ群とともに鏡筒がスムーズに前後するように作られているというわけだ。

 

   機構設計者は、ときにはAFやVC、電子部品の設計担当者から「これじゃあパーツを入れるスペースが足りない」と言われたり、光学設計者からは「このレンズ群が滑らかに高速で動くような仕組みを考えてくれ」など要求を出されたりしながら、加工コストや部品コストに悩みつつ設計を進めていく。
   いっぽうで、レンズを組み立てる工場側からは「もっと組み立てやすい設計に変更してくれ」といった要求も突きつけられ、設計変更をせざるを得ないこともある。

   そうしたあちこちからの要望を聞き、調整しながら(ときには頭を下げて頼みながら)設計を進めていくのが機構設計者たちだ。交換レンズの設計者たちのなかでは、もっとも苦労の多い部門ではないだろうか。私は交換レンズを使いながら、「このレンズは機構設計の人たちがよくがんばったんだなあ」と思うことがよくある。

   さて交換レンズは、ピント合わせのときやズーミングをしたときに、レンズ群が前後に移動する。その動きをいかにスムーズになるように設計するかも機構設計者のウデの見せ所である(ピント合わせは高速でAFしなければならないので、いまは小さなレンズ群をモーターで前後移動している)。
   ズーミングもフォーカシングも、いまはほとんどの交換レンズはピントリングやズームリングなど鏡筒部を回転させる方式。レンズ内部で複数の光学レンズ群は前後に移動する。つまり回転運動を直進運動に変える機構が必要となるわけだ。それを滑らかに、スピーディーに動かすようにしなければならない。
   「カム溝」とよばれる駆動機構がそれを担う。
 

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   カム溝加工のレンズ枠は、アルミダイキャスト製の円筒からいくつかの切削加工を経て仕上げられる。写真左は、加工前のアルミ製円筒と、それを目的の形状に近づけるように一次加工されたもの。それを写真右のようにカム溝加工や表面処理をすませてできあがる。大変に精密な加工精度が要求される。これは16-300mm (Model B016) のフォーカスカム筒(AFレンズ群を駆動させるための枠)のひとつ。このあと、黒くアルマイト処理される。中国・仏山のタムロン工場で。

 

   筒状のレンズ鏡筒に細い溝が彫り込まれ、その溝に沿ってカムピンが動いて、多重構造になった鏡筒が前後する。そのレンズ群は、いつも前や後方向に一定移動するとは限らない。ときには、あるレンズ群はゆっくりと前に移動するが、同時に別のレンズ群は高速で逆方向に移動するということもある。
   ズームレンズの場合や、第3回のブログで紹介したSP 35mm F/1.8 Di VC USD (ModelF012) レンズのフローティング機構などではレンズ群は大変に複雑な動きをする。カム溝をどのように設計し、精度良く加工して仕上げるかでピント合わせやズーミングのときの操作感の良し悪しが決まってしまう。

   カム溝のある鏡筒には、おもにプラスチック成形枠とアルミ金属枠のどちらかを使い分けている。プラスチック成形の枠は大量生産と低コストに利点がある。アルミ金属枠は耐久性とスムーズなカム移動に利点がある。しかし製造に手間がかかる。
   タムロンは一部の低価格レンズを除いて、アルミ金属製の鏡筒のほうを使い続けている。タムロンのこだわりでもある。
   アルミ金属は軽いとはいえプラスチック材に比べると重い。射出成形によって容易に仕上がるプラスチック成形枠に比べ、アルミ金属枠はカム溝加工に高い技術力も時間もコストもかかる。

   手に触れるレンズ外装部には金属を使用し、中身の鏡筒部にはプラスチック成形を使用しているメーカーもある。しかしタムロンはその逆で、見えないレンズ内部には精度と強度を優先して金属製の鏡筒を使うが、レンズ外装部には軽量化を優先してプラスチック成形部品を使う。
   (写真・1)のレンズ断面写真を見ると、鏡筒の白く見える部分がアルミ金属枠、黒く見えるのがプラスチック成形枠だ。タムロンの交換レンズにはそんなこだわりレンズが多い。
 

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   仏山市の中心街にあるカフェ。夕暮れ前に、お店の前で店長からの訓示(?)だろうか、それとも、新人店員たちへのアドバイスだろうか。仏山の街中にあるレストランやお店の店員たちは(以前の中国の店員たちとは大違いで)とても親切で愛想も良くなった印象を受けた。それにしても、VC(手ブレ補正)内蔵のレンズはいいですねえ。低速シャッタースピードでも手ブレを気にせずにシャッターチャンスを逃すことなく軽々とスナップができる。
   28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010)、絞り優先オート(F/8、1/30秒)、マイナス0.3EV露出補正、ISOオート(ISO450)

 

   タムロンは高倍率ズームレンズの先駆者でもある。高倍率ズームはズーミングの移動量も大きく、かつレンズ群も複雑に動く。レンズ全長も広角端から望遠端にズームしたときに変わるだけでなく、レンズの重量バランスも大きく変化する。
   しかしそれでも、とてもスムーズにズーミングできるように細やかな配慮がなされている。さらにもう1つタムロンズームレンズで注目して欲しいのが、自重落下するレンズが大変に少なくなったことだ。
   ズームレンズを撮影中に上や下に向けたとき、レンズの自重により勝手にズーミングしてしまうことがあった。それが、最近のタムロンのズームレンズでは、ほとんど見かけなくなった。機構設計者たちの苦労のたまものだろう。

 

 

   カム溝の設計と、そう、もう1つ大切なことは、レンズの組み立てだ。ちょっとしたネジの締め付け具合や、組み立てた後の動作チェックが丁寧におこなわれているかどうかが重要になる。滑らかなズーミングの操作感と不用意な自重落下を防ぐためには、レンズ組み立て時の細やかな配慮と調整が大事なのだ。
   レンズ組み立て時に、しっかりとした気配りと丁寧な作業がなされているかどうかで「レンズの品質」が決まるといってもいい。

   さて、次回は交換レンズの重要部品である光学レンズの研磨のもろもろについて解説をしていきたい。だんだんとタムロン工場の中に入っていいきますので、どうぞお愉しみに。
 

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   高倍率ズームレンズをセットしたカメラを一台だけ、手に持ったまま東京の街を歩くのが好きだ。シャッターチャンスを逃さないためには、カメラバッグに入れずに「手に持って歩く」ことが大切。バッグに入れていると、つい、めんどうになってしまうことがあり、それでシャッターチャンスを逃してしまう。向こうから自転車のハンドルに前足を載せて洒落たスタイルの犬がやってきた。飼い主さんにお願いをして数カットを撮らせてもらったのだが、カメラを構えるとさっとポーズをとったのには驚いた。
   16-300mm F/3.5-6.3 Di Ⅱ VC PZD MACRO (Model B016)、プログラムオート(F/6.3、1/320秒)、マイナス0.3EV露出補正、ISOオート(ISO800)

田中 希美男たなか きみお

多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
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