MADE IN TAMRON 人と技でつなぐタムロンのものづくり
トップ > タムロンのものづくり > ものづくりの現場を訪ねる > 第7回 中国・仏山タムロン工場について
- 第1回
MADE IN TAMRON - 第2回
タムロンレンズが大切にしていること - 第3回
描写のフィロソフィー - 第4回
交換レンズができるまでを俯瞰する - 第5回
交換レンズのもう1つの重要パーツ - 第6回
光学ガラス材から
写真レンズに仕上げる - 第7回
中国・仏山タムロン工場について - 第8回
どこで作っても、同じ品質、
同じ性能のレンズをめざす - 第9回
工場で交換レンズを作っている人たち - 第10回
デジタルカメラにとって良いレンズとは
田中 希美男たなか きみお
多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
ホームページは
『http://www.thisistanaka.com/』
中国・仏山タムロン工場について
レンズを製造する工場がやるべきことは、ごく簡単に言うなら、設計された図面や数値をもとにして正確に「カタチ(製品)」に作り上げることだ。レンズを磨き、レンズの部品を作り、それらを正確に組み立てる。容易なようだが大変に難しい。大きな責任もある。
少し大袈裟な言い方になるが、タムロン交換レンズの「品質」は、結局は工場のもの作りの「ウデ(生産技術力)次第」だと言えなくもない。
どれほど優れた設計をしても、工場側のほうが設計者の期待値に応えられなければ、つまり設計図面どおりに作れなかったり、正確に組み立てられなければ製品として成り立たない。
しかし、設計目標値に見合うもの作りをすることは工場としての最低条件であるが、設計図面を受け取ったからといってすぐに製品が作れるわけではない。
工場で生産スタートする前に、何度も試作が繰り返され、品質保証部による検査を受けながら、生産技術部と工場側が話し合い生産設備を整えたり、効率的で安定した品質が確保できるレンズ作りの方法を見極めて、ようやく工場で生産が始まる。
というわけで、新しい生産設備や、生産改善策を積極的に取り入れている中国の仏山タムロンレンズ工場でレンズ作りの現場を見学させてもらい、タムロンのもの作り、品質、技術力を見てみようと思う。
中国のタムロン工場は広東省広州市の南、約30㎞の仏山市内にある。仏山市は地方から出稼ぎに来て生活をしている人口を合計すると約740万人が暮らす大都会である。7世紀の中頃、三体の仏像が発見されたことが地名の由来で、古くは陶器作りの街だった。今は工業技術を中心に発展をし続ける大きな街となっている。
タムロン中国工場の正式名称は「騰龍光学(仏山)有限公司」という。
工場設立は1997年で、翌1998年から操業を始めていて、ほぼ20年になる。従業員数は約3000人で平均年齢は26.3歳と若い。操業は多くの部門が24時間体制である。
地方から出稼ぎに来ている社員のためには、工場の敷地内には寮があって、最大で1000人ほどが生活できる。従業員用の専用食堂も完備していて朝、昼、夜、それと深夜の4回の食事が可能という。
なかには、仲間どうし共同でアパートを借りて生活している社員もいる。食費、寮費、アパート費用ともに会社からの援助システムがあるなど充実している。中国の他の工場に比べてタムロン工場の離職率は低いという。実際、15年以上の勤続年数のベテラン社員もたくさんいる。
ところで、現在、タムロンの「工場」は、国内、海外にあわせて6カ所ある。
埼玉県さいたまの本社には金型製造の工場があり、これが1つ。青森県には弘前工場(金属部品加工、レンズ組立)、浪岡工場(球面レンズ研磨、非球面ガラスレンズの製造)、大鰐工場(プラスチック成形品の製造)の3つがある。そして中国・仏山のタムロン工場と、2013年設立のベトナム・ハノイ市にあるタムロン工場の2つがある。
中国・仏山のタムロン工場では、レンズ研磨加工から、プラスチック成形や塗装、レンズ枠にある銘板などの印刷、金属部品の加工、レンズ組立をして完成品を梱包、そして出荷までをひとつの工場の中で、ほぼ一貫生産をおこなっている。
ただし一部の部品については仏山タムロン工場で作っていないものもある。電子部品(AFやVCのユニットや電子基板)もそうだが、プラスチック成形をおこなうための金型はさいたま本社内の工場から、非球面ガラスレンズ(GM)やナノ構造のeBANDコーティングを施した特殊レンズなどは青森・浪岡工場から供給を受けている。レンズ梱包材や化粧箱などは仏山市周辺の協力工場で作られているものもある。
すでに皆さんはご存じのことと思うが、タムロン、すなわち株式会社タムロンは交換レンズだけを作っているメーカーではない。もちろん、事業全体からみればカメラ用交換レンズの生産の比重は大きく、他メーカーからの交換レンズのOEM生産(相手先ブランドによる委託生産)もある。
そのほかコンパクトデジタルカメラやビデオカメラ用のレンズユニットの生産もおこなっている。さらに独自設計による監視カメラ用レンズや車載カメラ用レンズも製造するなど、総合光学機器メーカーでもある。
交換レンズ以外の先進的な光学機器を開発、設計、製造することで、そこで得られた新しい技術やもの作りのノウハウが、今度は新しい交換レンズの設計や製造に応用され活用されていることもある。
現在、仏山タムロン工場で生産している交換レンズは8種類ほどある。中には青森県の浪岡工場でレンズ作りをして弘前工場でレンズ組み立てを一定期間続けたあとに、その組み立てラインをほぼそのまま仏山タムロン工場に移して生産しているレンズもある。たとえば「SP 24-70mm F/2.8 Di VC USD(Model A007)」や「28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD(Model A010)」などがそうだ。
タムロンは青森3工場を「マザー工場」として位置づけている。レンズ作りの長い歴史もあるし、レンズ製造や生産ラインについて優れた技術と知識を備えたベテランも多い。
まず、青森のマザー工場で生産を始めてみて、もしそこで不具合などが見つかれば修正したり改善する。安定した生産体制が整ってから仏山タムロン工場に移していた。
青森マザー工場から仏山タムロン工場に生産ラインを移管するというシステムをしばらく続けてきたが、しかし、だんだんと仏山タムロン工場の生産技術も向上してきた。そのうち、青森マザー工場と肩を並べるまでに成長してきた。
その成果として、最新型の「SP 85mm F/1.8 Di VC USD(Model F016)」や「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD(Model A011)」「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD (Model A022)」は青森マザー工場を経ずに、いきなり仏山タムロン工場で量産が始められるようにまでなった。そこまでの実力があると認められたわけだ。
いまの仏山タムロン工場は青森のマザー工場の長年の指導に基づき、ほぼ独立自立しつつあり、ベトナムタムロン工場の「マザー工場」になるまでに成長してきている。
次回のこのブログでは、仏山タムロン工場の中で実際に交換レンズが組み立てられ、検査を重ね、出荷されるまでの工程を眺めてみようと思う。次回もどうぞお愉しみください。
田中 希美男たなか きみお
多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
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