MADE IN TAMRON 人と技でつなぐタムロンのものづくり
トップ > タムロンのものづくり > ものづくりの現場を訪ねる > 第3回 描写のフィロソフィー
- 第1回
MADE IN TAMRON - 第2回
タムロンレンズが大切にしていること - 第3回
描写のフィロソフィー - 第4回
交換レンズができるまでを俯瞰する - 第5回
交換レンズのもう1つの重要パーツ - 第6回
光学ガラス材から
写真レンズに仕上げる - 第7回
中国・仏山タムロン工場について - 第8回
どこで作っても、同じ品質、
同じ性能のレンズをめざす - 第9回
工場で交換レンズを作っている人たち - 第10回
デジタルカメラにとって良いレンズとは
田中 希美男たなか きみお
多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
ホームページは
『http://www.thisistanaka.com/』
描写のフィロソフィー
前回のブログでは、最近のタムロン交換レンズの注目すべきポイント、すなわち、タムロンレンズの「良さ」として5つの項目をあげた。
それぞれの項目を成立させるには、高い技術力が必要となる。いや、技術力があるだけではだめだ、明確な「フィロソフィー(考え方、思想)」がないことには満足する結果は得られないはずだ。
5つの項目のどれにもあてはまることだが、「優れた交換レンズに仕上げるには、どんな苦労をしてでもいいからこの技術を組み込むのだ」、という設計者たちの強い「こだわり(信念)」もなくてはならない。「フィロソフィー」と「こだわり」こそ、タムロン交換レンズのキーワードかもしれない。
前回の繰り返しになるが、タムロンレンズの注目すべき5つの項目だ。
① 「解像力+諧調描写力」の両立
② 手ブレ補正機構(VC)の内蔵
③ 最短撮影距離
④ 自然なボケ味
⑤ フレア/ゴーストの低減
まず、①の「解像力+諧調描写力の両立」であるが、そこにこそタムロンレンズの描写のフィロソフィーを見ることができる。
最近、いろんなメーカーから発売されている交換レンズには、目立った描写特性傾向がある。解像力最優先型でハイコントラストなレンズが多いことだ。
高画素化したデジタルカメラに「負けない」ように、やや強引に解像力に重点を置いた光学設計をしているからだろう。高コントラストで解像力のある「線の太い」描写は見る人に強いインパクトを与える。初心者にもぱっと見ただけで「シャープで写りの良いレンズだ」と思わせられる。
しかし逆に、充分な解像力を確保しつつ、諧調描写力を損なわないようにコントラストを適度に抑えたレンズの描写は、ハイコントラスト解像力重視型のレンズ描写に比べると「描写の良さ」が少しわかりにくい。いわゆる「線の細い」解像力の描写だ。
タムロンの交換レンズの基本特性は、いま流行のハイコントラスト解像力重視型ではなく、諧調描写性力と解像力の両立型のレンズなのである。
諧調描写力と解像力がバランスよくとれたレンズの描写は、いっけんすると解像感にもの足りなさを感じることがある。しかし撮影前にカメラ内のパラメーター設定をしておいたり、撮影後に画像処理をすることで見かけ上の解像感アップや、メリハリのあるシャープな画像に仕上げることは比較的簡単にできる。ところが、もともと高コントラストで解像力に重点をおいた画像からは、柔らかく諧調豊かな画像に仕上げようとしても処理が難しく、できたとしても破綻してしまうことが多い。私はこれを"危険な描写性能"とよんでいる。
タムロンの交換レンズは、さまざまなメーカーの各種カメラボディと組み合わせて使用されることを前提にしている。メーカーの絵づくりの違い、カメラボディに内蔵された画像処理エンジンの違いなどの影響を受けないように、タムロンは意図的に「余裕」のある描写にしている。撮影した画像が誇張されすぎたり破綻したりしないように配慮してレンズ設計されているのだ。素材重視のレンズ描写といってもいいだろう。
バリバリ解像感のあるハイコントラストな描写のレンズにしない、そのことこそがタムロンレンズの描写の特性であり、タムロンレンズの描写のフィロソフィーだとも言える。
SP 35mm F/1.8 Di VC USD (Model F012)、絞り優先オート(F/2.5、1/40秒)、マイナス1.0EV露出補正、ISOオート(ISO800)。
SP 35mm F/1.8 Di VC USD (Model F012)、絞り優先オート(F/2.5、1/40秒)、マイナス0.3EV露出補正、ISOオート(ISO1400)。
②の手ブレ補正(VC)内蔵と、③の最短撮影の距離を短いレンズを設計することには、最近のタムロンレンズは強い「こだわり」を見せている。
手ブレ補正を内蔵することと最短撮影距離を短くすることは、描写性能と真正面から戦うことになる。戦い(苦労)を避けて描写性能の良いレンズを設計するには、手ブレ補正と最短距離を諦めれば比較的簡単なこと。
手ブレ補正を採用することはレンズ光学設計の自由度を大きく制限してしまう。補正レンズ群や機構を小さく軽くしなければいけないし、補正光学系の配置場所にも制約を受ける。ブレ補正レンズを動かすためのモーターや制御ユニットのせいでレンズが大型化してしまうのも避けられない。光学設計者も機構設計者も、本心を言えば手ブレ補正はなしにしてほしいはず。
しかしタムロンは、ユーザーの利便性を優先させて、敢えて手ぶれ補正内蔵レンズにこだわり挑戦し続けている。
最近のタムロンレンズで言えば、新しいSPシリーズのすべてには手ブレ補正(VC)が内蔵されているし、中にはF/1.8という大口径レンズにも果敢にVCを内蔵してきている。タムロンのこだわりというよりも「意地」のようなものを私は感じる。
もうひとつ、最短距離を短くすることには、近距離撮影時に目立ってくる厄介な収差をいかにして抑え込むかの戦いになる。もっとも簡単な解決策は、近距離撮影を諦めたレンズにすることだ。しかしそうすると近いところにピントが合わせられなくなる。それはユーザーに我慢と制限を強いることになる。
そこでタムロンが選んだのがフローティング方式の採用。通常は1つのレンズ群を前後させてピントを合わせるのだが、複数のレンズ群を複雑に前後させながらピント合わせをすることで収差が効果的に補正ができる。これがフローティング方式である。新しいSPシリーズではSP 35mmとSP 45mmにそれが採用されている。
難点は、複数のレンズ群を複雑、精密、スムーズに動かす機構が必要になる。それを可能にしたのがタムロンの鏡筒設計の技術なのだ。
SP35mmやSP45mmのフローティング機構や、④の自然なボケ味、⑤のフレア/ゴーストの低減についても、タムロンのレンズ設計技術のこだわり、フィロソフィーがたくさん込められている。それについて皆さんにお話ししたいことが、もっともっとたくさんあるのだが、今回も、ちょっと話が長くなりすぎてしまった。それらについては、回をあらためて詳しく話しをさせていただきたい。
このブログのほんらいのテーマである「タムロンのレンズ作り」のほうに先を急ぎたい。
次回のブログでは、タムロンはどのような手順を経てレンズを企画し設計、製造して製品として完成させているのか、その道筋を俯瞰的に眺めてみようと思っています。どうぞお愉しみに。
SP 85mm F/1.8 Di VC USD (Model F016)、絞り優先オート(F/2.0、1/125秒)、マイナス0.7EV露出補正、ISO100。
田中 希美男たなか きみお
多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業後、フリーランスフォトグラファーに。おもにクルマの撮影を専門とするが、人物、風景、スナップなど撮影分野は多岐に渡る。おもな出版書籍は「デジタル一眼上達講座」、「デジタル一眼 "交換レンズ" 入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房) 、「名車探求」(立風書房)など。写真展は多数開催。現在、カメラやレンズ、写真関連の雑感を写真ブログ『Photo of the Day』や、twitter『@thisistanaka』で情報を発信中。
ホームページは
『http://www.thisistanaka.com/』