2024.09.26
写真家 並木 隆氏がタムロン90mm F2.8 MACRO (Model F072)ソニー Eマウント用で写すマクロ・スナップの世界
写真家 並木 隆氏がタムロン90mm F2.8 MACRO (Model F072)ソニー Eマウント用で写すマクロ・スナップの世界

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最大撮影倍率は等倍で最短撮影距離は0.23m。タンポポの蜜を一生懸命吸っている蝶に等倍・開放絞りで寄ってみました。目にピントを合わせていますが、複眼のひとつひとつが確認できるほどしっかり解像しています。高倍率時でも開放から安心して使うことのできる解像力の高さをもっています。また、等倍時のワーキングディスタンスは約9cmと、被写体との適度な距離を保つことができるので、蝶に逃げられることなく撮影できました。これも90mmという焦点距離を持つマクロレンズの魅力のひとつです。(フードは外して撮影しました。)
折り重るように咲いていたハイビスカス。右の黄色いボケは重なっている手前のハイビスカスの花芯で、奥のハイビスカスの花芯にピントを合わせています。適度な距離のワーキングディスタンスを得られるので、このように手前の被写体をフレーミングして前ボケを入れるのも容易なレンズです。
F5.6まで絞り込んでいるのは、開放絞りだと前ボケが黄色い大きなボケにしかならず、ハイビスカスの花芯の雰囲気が感じられなかったからです。マクロレンズは高倍率になるほど露出倍数によってシャッタースピードが遅くなるので開放絞りで撮ることが多かったのですが、近年のカメラの進化によって高ISO感度でもキレイな画質が得られるようになったので、開放絞りだけではなく絞り込んでボケ味の違いも楽しんでみましょう。
個人的にこのレンズ最大の特徴だと思うのが12枚の絞り羽根の搭載です。絞り羽根の枚数が多いほど、絞り込んだときの点光源のボケが多角形になり円形に近くなるだけでなく、ボケ味が滑らかになるので描写性能にとってはメリットばかりです。しかし可動部分が増えることで羽根が噛みやすくなるので、メカニカル的に難しい部分を克服!
円形絞りの恩恵を受けるF5.6くらいまではキレイな円形のボケに、それ以降の絞り値でも多角形ではありますがこれまでのレンズにはない美しさをもっています。そういった意味でもこのレンズは開放絞りだけでなく、どんどん絞り込んで12枚の絞り羽根によるボケ味を味わってほしいです。
マクロレンズで前ボケを入れるとき、前ボケになる被写体をレンズに近付けるほど大きなボケ味が得られます。でも近付けすぎるとボケが大きくなりすぎて薄くなってしまうので、余計なものを隠そうと思って入れたのに透けて隠しきれなかったり、色味を追加しようと思っても色の印象が弱くなってしまいます。ボケすぎた場合、前後に動いてレンズ先端と前ボケになる被写体との距離が調整できる場合は少し距離を開けてボケ味を調節したり、ピントを合わせた被写体の大きさを変えたくないといった前後に動けない場合は、絞り込んでボケ味を調節したりしてみましょう。ちなみにボケ味の具合やボリュームに正解などありません。いろいろ試しながら好みのボケ味を探し出しましょう。
12枚の絞り羽根の効果はボケ味だけではありません。太陽や街頭などの強い点光源にピントを合わせて絞り込んだときに出る光条がきっちり12本出てきます。水面に映り込んだ太陽でも同じ効果が出るので是非試してみてください。ちなみに偶数ではその本数、奇数では倍の本数の光条が出てくるので、前モデルのSP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD (Model F017)は9枚羽根絞りなので18本の光条が出てきます。
太陽をフレーミングしてもゴーストやフレアによる画質の低下が最小限に抑えられているのでとても逆光に強いレンズです。花の撮影では花びらの透過光を狙うときは逆光での撮影が多くなるので必須の性能です。とはいえ全く出ないわけではないので気になるときはフードを装着したり、光源の配置を変えたり、被写体と被せたりしながら調整してみましょう。
このアジサイはもっと濃い青色なのですが、透過光による透明感がとても印象的だったので露出補正をプラス4EVに設定してかなり明るめの露出で撮影してみました。こういうとき逆光に弱いレンズだとフレアによってコントラストは低くなりもやっとした感じになりやすいのですが、逆光に強いこのレンズならフレアも出にくくコントラストを維持したままなのでそんな心配も無用です。
マクロレンズはネーミングからクローズアップ専用レンズというイメージを持たれがちなのですが、もちろん限遠にもピントを合わせることができるので、90mmの単焦点レンズとしてこのように風景の一部分を切り取ることもできます。マクロレンズだからどんな被写体に最適なレンズなのかではなく、寄ったり引いたりといった幅が一般のレンズよりも広いのが特徴なので、一部分を切り取ったり大きなボケを生かしたり、引いたりとひとつの被写体でいろいろなバリエーションを作ることを意識するとより楽しむことができますよ。
ボケ味は滑らかでキレイですし、12枚の絞り羽根の効果は描写性能に確実に反映されていますね。写真では伝えられない部分としてはAFが非常に速いです。ピントの移動距離が一般的なレンズよりも幅が広いマクロレンズは合わせ直すときの時間が長くなってしまうので総じて遅いという印象を受けやすいのですが、リニアモーターフォーカス機構VXD (Voice-coil eXtreme-torque Drive)の採用で、高精度で速いAFを実現しています。
レンズフードも窓がついたことでPLフィルターだけでなく動画撮影時に多用する可変NDフィルターなどもフードを付けたまま調整できるのはユーザー目線でとてもいいポイントです。また、ボディ全体がコンパクトにまとまっているのでコンパクトなミラーレスカメラボディとの相性もバッチリですし、TAMRON Lenz Utility™によるピントリング回転角などのカスタマイズも可能で、より自分好みのレンズに仕上げることができます。普段から持ち歩きたいと思うレンズがまた一本増えてしまいました。
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Takashi Namiki 並木 隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。花や自然をモチーフに各種雑誌誌面での作品発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人 日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。
記事で紹介された製品
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90mm F/2.8 Di III MACRO VXD f072(Model )
90mm F/2.8 Di III MACRO VXD (Model F072)は、長年「タムキュー」の愛称で親しまれてきたタムロン90mmマクロレンズのミラーレス版です。高い解像力と光学性能を誇り、タムロン初の12枚羽根の円形絞りが、美しい玉ボケと光芒表現を実現します。軽量・コンパクトなデザインで気軽に持ち運べ、新型の窓付きフードでフィルター操作も容易です。さらに、TAMRON Lens Utility™に対応し、高速・高精度AFを搭載したこのレンズは、写真と動画撮影の可能性をさらに広げます。伝統の描写力と最新技術を融合させた、新たな「タムキュー」の歴史を切り拓く一本です。