2024.09.26
「一眼カメラでショートムービーを撮る・レンズのボケを活かしたフォーカスワークでシネマチックな表現」をしよう!
前編:「構成・演出・フォーカスワーク」について
「一眼カメラでショートムービーを撮る・レンズのボケを活かしたフォーカスワークでシネマチックな表現」をしよう! 前編:「構成・演出・フォーカスワーク」について
「一眼カメラで動画を撮ろう!動画撮影の基礎知識やコツを徹底解説」、「ワンランク上の動画を撮るなら一眼カメラ!メリット・おすすめ撮影シーン・交換レンズなどを紹介!」で、動画を始める際に気を付けるべきポイントを解説しました。
今回は、撮影を始める前に考える構成や演出について、実例を踏まえてご紹介いたします。
編集部:初めに脚本の組み立て方の基本について教えてください。こちらで少し調べてみたところ、脚本の基本を4コマ漫画に例えて「起・承・転・結」で紹介している教材を見かけました。これが脚本の組み立て方の基本ですか?
松本:確かに日本ではそういう教え方もあるみたいですね。私が学んだ環境では、3部構成で、ACT1(設定)・ACT2(展開)・ACT3(解決)という流れが基本でした。これが短編や2時間の長編映画、1時間のドラマ、30分のアニメ、1分のCMでも基本的には同じ構成で作るというのが世界的な共通認識になっています。これを仮に「起・承・転・結」に当てはめると、ACT1(起)・ACT2(承・転)・ACT3(結)ということになるかと思います。
動画作例の依頼をいただき、いくつかプロット*1を考えている段階で、今回の“料理工程”のアイディアが浮かびました。料理を作るという工程には必ず道具が必要です。それを使う中で色々なアクションがあるので、「どこに視線を持って行き」「何が出来るのか」ということを見せることが重要です。今回の‟アップルパイ作り”では、りんごを切った包丁ではなく、断面に目線を行かせたい、ハケがどっちに動いて行くか、みたいな所も「ボケ」があるからこそ視線を誘導することが出来る良い作例になったと思います。
これが仮にレシピのプロセスを見せる動画だとすると、ジャンプカット*2せずに途中の行程もしっかりと見せる必要があるので、違うリズム感に構成をしたと思います。今回はアップルパイを作る工程を使い「レンズのボケ味を魅せる」ことが目的ですから、こういったリズム感にしてみました。
*1 動画制作をするにあたり、方向性や構成などの大きな流れをまとめること。この段階で、クライアントをはじめ、監督やスタッフの認識を統一します。プロットを経て、セリフや細かい動きを決めていきます。
*2 異なるカットとカットをつなぎ合わせ、一つの動画の流れを無視した表現手法です。動きや、時間が急に変わった印象をもつため、視聴者にテンポの良さや、スピード感、驚きを与えることができます。
編集部:制作された動画作例を視聴しました。この作例について詳しく聞かせてください。依頼を受けてから企画・構成の作成までどのように進めたのですか?
松本:今回ご依頼をいただいた動画作例は2分半に纏めたいという要望をいただきましたので、その中で初めて観る視聴者の方が「これから何が始まるのだろう」と、ある程度「何があって」、「何がどう終わるのか」をストーリーの中に構成する必要があると考えました。
編集部:観る側の興味をかき立て、動画に集中してもらう作戦ですね。
松本:そうですね。今回はアップルパイ作りがテーマとなっています。ただパイを作るという、それだけの流れですが、先ほどのストーリーを成立させるため、前半である程度何をしているかという流れをしっかり見せておき、後半は早い展開で見せて行くということを意識した構成にしています。
編集部:もう少し具体的に教えてください。
松本:「リンゴを切る」「お鍋に入れて煮詰める」と前半は長めのカットに時間を割いています。そして、中盤から後半にかけての「パイ生地を成形する」「オーブンに入れる」などはリズミカルなテンポを意識しています。
そうすることで、ストーリーとして自然に視聴することができたと思うのですが、これはどんな短い作品でも、冒頭のシーンをしっかり見せることで世界観に入れるとの狙いで構成を組み立てた結果です。冒頭の2カットで「卵」や「まな板と麺棒」を見せた時点で「これは料理だろう」と視聴者は想像することが出来たと思います。見せられる要素は他にたくさんありましたが、今回はこれらの被写体をチョイスしました。
松本:ありがとうございます!
今回は主役であるリンゴが登場する部分を、そのままオープニングの導入につながるよう意識して組んでみました。リンゴが左からコロンと出てきて、そのままオープニングタイトルにつながる箇所ですが、本来2カットで構成するところを1カットの通しで見せることで、ちょっとした「遊び心」を感じてもらえるように意識しています。
編集部:観ている側が、どうやってリンゴがコロンと転がり込んできたのかな?と考えつつも、とても可愛らしい演出だと思います。
松本:こういった演出も過剰だと「いかにも」という感じに見え、世界観に入り込めず冷めてしまう瞬間があります。それをいかに自然な流れで見せられるかを、プロとしてその辺りを意識しながら構成を考えました。
編集部:演出しているな。と視聴者が思わない程度にごく自然な演出をする。
これはなかなか難しいことだと思います。どうしても演出の技を見せたいという気持ちが強くなってしまうものですよね。
松本:初めて構成を経験される方は、基本は押さえつつ、それをどのように自然な流れで見せられるかというのを意識出来るかが、一つのポイントになると思います。
編集部:今回、オープニングタイトルが手書きというのも、何か意図があってのことですか?
松本:はい。このカットですが、構成の検討を始めた当初からオープニングの前半でタイトルを入れたいとの考えがあって、最初は編集で入れることを想定していました。ただ、今回の「手作り感」というテイストを踏まえた世界観を考えると、アナログ的な手法にも拘りたいとの思いもあり、ぬくもりのある手書き文字へ、フォーカス送りをする演出を考えました。
編集部:リンゴからタイトル、そしてリンゴへとピントが変わる展開ですが、こちらの演出をマニュアルフォーカスで行うのは難しかったのではないですか。
松本:依頼をいただいた時に、TAMRON Lens Utility MobileTM Ver.4.0が使えるという話を伺い、作り込んだ演出に対して正確なフォーカスワークが出来るな。と思いました。ですので、その前提で組み立てています。
編集部:このシーンでTAMRON Lens Utility Mobile Ver.4.0が活躍しているのですね!
松本:普段の撮影方法ですと、フォーカスを3秒で送って3秒で戻すといった単純に思える作業でも、そこは人が操作しているのでどうしても正確な時間が望めません。プロでもそうですし、初めての方ならもっと大変だと思います。
編集部:ピントを送るシーンをワンシーン撮影するだけでも、イメージしたテンポと、実際のテンポが少しズレてしまい、意図通りにならないのは分かります。
松本:そして、撮った後も現場では良いと感じても、編集(ポスト)の段階で大きな画面をみていると、「あと0.5秒前にピントが欲しかった」と気づくこともあります。今回は現場で画を見ながら、テンポ感も含めてTAMRON Lens Utility Mobile Ver.4.0を使って微調整しながら撮影できたことで、カットとしても安定していて編集でも使い易い素材になったと思います。
編集部:リンゴをカットするシーンがありました。シズル感*3といいますか、立体感がとても印象的でした。
松本:はい、このカットについては、大きなボケ感とピント面を同時に表現することで料理のシズル感と立体感が効いていると感じています。このシズル感と立体感を長くリッチに見せたかったということもあって、60P (60コマ)で撮影した素材に編集で少しだけスローをかけ、24P (ノーマルスピード)の音声に対して違和感のない範囲でスローをかけるテクニックを使っています。
1カットとしては長めに見せているので、凄く狭い範囲ですが繊細なフォーカスワークで視線を誘導しつつ、カットの最後まで世界観を崩すことなく視聴出来るよう心掛けました。
*3 肉を調理する際に焼ける音を表現した「sizzle」が由来。主に、食材や料理を扱った広告写真や動画などの表現において、実体感のある瑞々しい感覚を表現する際に使われます。食品・料理以外でも、リアリティ感や、臨場感の意味で用いられることがあります。
編集部:鍋でリンゴを煮詰めているシーンやパイ生地に卵液を塗っているシーンは、テンポ感を早めていると伺いました。
松本:はい、前半に比べ速い展開でカットを繋いでいます。ただ、フォーカスはしっかりと合わせるように意識しています。なぜなら、全体にピントを合わせたような表現ではシズル感や立体感に乏しい画になってしまうと考え、浅めの深度でピントをフォローするという演出を意識したからです。
それに加えて、テンポの早いカットで完成への期待感を盛り上げる意図もあります。テンポを早めるとスピード感が生まれ、テンションをあげて行く効果がありますので、それを意識しています。ちなみに音楽も作曲家さんが意図を汲んで、後半に向けて展開を変えてくださっています。
編集部:確かに、その先のシーンへの期待感が高まりますね。
松本:そして、ここから終盤に向けてシーンが進みます。パイをオーブンに入れるシーンですが、オーブンのあとの窓外から室内を見せるシーンに繋げることで時間経過を表現しています。
フォーカスワークとして意識したのは、オーブンからのフォーカスアウトで、TAMRON Lens Utility Mobile Ver.4.0を使ってフォーカス送りを何パターンか時間を変えて撮影しました。結果的に長めの時間でフォーカス送りしたものを採用しています。
前後のカットのフォーカスアウトとインのテンポを合わせることで、自然なロングディゾルブ*4の表現になったと思っています。そして、屋外のショットを挟むことでジャンプカットした不自然さを緩和すると同時に、焼き上がりまでの期待感みたいなものを表現してみました。
それと同時に、外からの俯瞰のカットを入れることにより、視聴者に一息いれてもらうことができるので、「世界観が変わった」と説明することができます。
編集部:なるほど。確かにこのカットの繋がりがなかったら急にパイが焼き上がって「あれっ?」となりますね。そしてここからエンディングへと自然に繋がります。
*4 トランジションの一つ。前のカットを徐々にフェードアウトさせ、次のカットをフェードインさせる表現方法。溶けあうように二つのカットが変わるため、回想シーンや時間の経過を表す場面転換に使われる。
松本:ここもオープニングのタイトルと同様に、アナログ的な手法に拘っています。スライダーの動きに合わせつつ、モデルさんの動きにシンクロするようにフォーカスワークをしています。重要なのはコースターにカップを置く動きにシンクロしているということで、早すぎても遅すぎても不自然になっていたと思います。フォーカスの合う位置はTAMRON Lens Utility Mobile Ver.4.0にゆだねることができたので、動きを合わせるタイミングに集中することができました。
編集部:カメラが水平移動しつつ、モデルさんの動きに合わせてフォーカスワークするというのは、素人から見ても複雑なカメラ操作だと感じます。TAMRON Lens Utility Mobile Ver.4.0を使うことができなかったとしたら、どのような点で苦労されたと思いますか?
松本:マニュアルフォーカスだったらピント位置やタイミングを合わせることが難しかったでしょうし、オートフォーカスでもここまで動きにシンクロしたフォーカスワークは難しかったのではないでしょうか。TAMRON Lens Utility Mobile Ver.4.0のお陰で、最小限のリテイクで撮影できた実感がありますね。
記事で紹介された製品
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90mm F/2.8 Di III MACRO VXD f072(Model )
90mm F/2.8 Di III MACRO VXD (Model F072)は、長年「タムキュー」の愛称で親しまれてきたタムロン90mmマクロレンズのミラーレス版です。高い解像力と光学性能を誇り、タムロン初の12枚羽根の円形絞りが、美しい玉ボケと光芒表現を実現します。軽量・コンパクトなデザインで気軽に持ち運べ、新型の窓付きフードでフィルター操作も容易です。さらに、TAMRON Lens Utility™に対応し、高速・高精度AFを搭載したこのレンズは、写真と動画撮影の可能性をさらに広げます。伝統の描写力と最新技術を融合させた、新たな「タムキュー」の歴史を切り拓く一本です。