2024.06.07
風景写真家 別所 隆弘氏がタムロン28-75mm F2.8 G2 (Model A063)ニコン Z マウント用で巡る全国各地桜の名所
いよいよタムロン28-75mm F/2.8 Di III VXD G2 (Model A063)ニコン Z マウント用が登場しましたね。今に至る「軽量大三元」のブームを作った元祖の最新版がZマウントに登場したことは、Zマウントのエコシステム全体にとっても、大きな意味を持っています。なんだってそうですが、チョイスが多いほうが生態系全体が栄えるようにできているのは、生物もカメラも社会も一緒。今日は今年の春に各地で桜を撮影した写真を見返しながら、改めてこのレンズの良さを確認していきたいと思います。
一枚目の写真 焦点距離:67mm 絞り:F4.5 シャッタースピード:30秒 ISO感度:100 使用カメラ:ニコン Z 8
1枚目は奈良県佐保川で撮影した一枚。明るそうに見えますが、30秒の露光です。それを示すように、水面が流れています。まるでお昼に撮ったような印象に見えるのは、街灯の光が地明かりとして周囲をわずかに照らしているからで、陽が落ちる前後の薄暗闇に、この街灯の光がいいアクセントを加えてくれます。なんて書くとまるでいいことずくめのような気がしますが、風景写真を撮られている方ならお分かりの通り、光源が複数あるってことですよね。太陽から放たれてくる最後の残照、町あかり、街灯のあかり、そうしたものがほんのわずかずつ対象を照らし出して、色は非常に複雑になるのですが、その分離がすごく気持ちよい。写真として上品さを感じるのは、色の区分けがきっちりできているからなんですが、それが可能になるのはZマウントのAWBとタムロンの相性がいいからです。昔からニコンとタムロンの組み合わせはとてもよかったのですが、Zマウントでもやはり素晴らしい出力をしてくれるのがこの作例でよくわかります。加えて、高画素機につけても全く問題ない解像力の高さは、一つ一つの桜の花びらが精細に描かれていることからもわかります。相変わらずいい絵を出しますね。
次の一枚は、滋賀県の甲賀市を流れる鮎川で撮影した桜並木。実はここは、本当は水面に桜が一面に反射するんですが、今年の春は雨が多かったせいもあって、全体的に川の水量が多く、今年はほとんどリフレクションを撮ることができませんでした。そういう年もありますね、自然相手ですから。とはいえ、この一枚もまたレンズの特性がよく出ています。どこに出ているのか、もちろん、逆光耐性ですよね。左側から夜明けの太陽が入り込んでいるのが見えると思いますが、位置がちょっと嫌ですよね。この写真は広角側に入る35mmで撮っているのですが、広角で対角線あたりに太陽が入ると、その対角線の反対側にフレアやゴーストがでがちです。でも、この写真にはフレアもゴーストも出ていません。タムロンレンズのゴーストやフレアを低減するBBARコーティングが、第二世代のG2に進化して、より逆光に強くなったようです。最近はあえてゴーストやフレアも「味」として使う写真家も増えてきて、オールドレンズの再評価の機運も高まっていますし、そういう傾向は個人的には大歓迎ですが、風景写真家は基本的に目の前にある風景を可能な限り精細かつクリアに写したい種族です。そういう種族の末端に私も属しているので、今回のこのコーティングの向上は本当にありがたいのです。
さて、この写真、実はもう一つ大事なことを言いたかったのですが、せっかくなので同系統の別の写真を使って説明しましょう。
こちらは皆さんご存知かもしれませんね、滋賀県彦根市にある彦根城です。さて、この場所ですが、三脚は控えて欲しいという旨の張り出しが行われていたので、この写真も手持ちで撮影しています。一方、コロナの時期は滞留も控えて欲しいという告知でしたが、コロナの明けた今年は5分間までの滞留は可能と、こちらも現地で告知が出ていたので、なるべく急いで手持ちで撮る必要があったわけです。こういうシチュエーションでは、手持ちの軽快さがむしろ強みになりますし、もっと重要なのは三脚よりもローアングルで撮影ができるようになるという点です。Z 8はチルト液晶なので、限界まで低いところにカメラを下げることができる。特にこの時は、写真をよく見るとわかるようにほんの少しリフレクションを乱す風が吹いていたんですね。地面近くまでカメラを下げて、水面の乱れの映る領域を減らしたい状況です。しかも徐々に風が強まりそうな雰囲気でもありました。できる限り素早く、低いアングルから撮る必要があるときに、カメラやレンズの取り回しの良さというのは大事です。一つ上の写真でも、水面ギリギリまで下げて撮っているのも、このレンズの取り回しの良さによって、より簡単にリスク少なく撮影可能になったものです。
そう、改めて28-75mmの軽さにこの時は助けられました。地面スレスレでカメラを平行になるように構図を整えるなんて体に負担のかかるポーズで撮影しても、550gというバランスの良い重量のおかげでずいぶん手間と苦労が減ります。結果として制限された5分の間にちゃんと綺麗に手持ちで撮影した夜景リフレクション写真が成功しました。ちなみにシャッター速度は1/6秒。そう、夜景でこのシャッター速度を維持して手持ち撮影可能になるのは、もう一つ大事な要素がこのレンズにはあるからですよね。次の写真でそれはお見せしましょうか。
私にしては珍しい人物写真。大人気のモデルさんである春日久瑠実さん(くーちゃんって呼ばれてますね)にお願いして、今年の桜の最後を撮ってきました。京都を回ってる途中に見つけた場所で撮影しています。さて、この2枚とも、ボケを使うことで距離感を表すと同時に、もう一つ大事なこと、「隠したいものをそれとなく隠す」をやってます。例えば上の写真は橋の下のコンクリ部分の無骨さであったり、下の写真は補色が強すぎると華やかさが減るので、緑を桜の前ボケで印象を薄めています。こういう時、やはり大きくボケてくれるF2.8で、しかも焦点距離75mmという望遠に入るズーム域がいい仕事をしてくれるんですね。ボケ自体も美しい一方でピント面はシャープに解像してくれるので、写真の立体感が強くなります。それに加えて、F2.8だからこそ、先ほどのような「手持ち夜景」が可能になるんです。そう、上で言い残したことはそれでした。F2.8というのは、表現的にも、そして明るさ的にも、やはり最も欲しい部分なんですね。と同時に、これ以上明るくなると重量が極めて重たくなる。そのギリギリのトレードオフで成立している28-75mmの550gという取り回しの良さと描写の良さは、やはり特筆すべき万能さです。