2023.09.22
写真家 別所 隆弘氏がタムロン35-150mm F2-2.8 (Model A058) ニコン Z マウント用で撮る地元滋賀県「夏の終わり」
写真家 別所 隆弘氏がタムロン35-150mm F2-2.8 (Model A058) ニコン Z マウント用で撮る地元滋賀県「夏の終わり」
タムロンから発表された35-150mm F/2-2.8 Di III VXD (Model A058)を見た時、ニコン Z マウントでこれを出すのはいいチョイスだと思いました。というのも、近年のタムロンレンズの中でも、この35-150mm F2-2.8ほど際立って個性的なレンズというのは、他に存在しないからです。まず焦点距離がおかしい。35mmからスタートして、150mmで終わるズーム域を見た誰もが、最初は「!?」と目を白黒させるでしょう。見たことのない数字が二つ並ぶと、人間というのは認知的不協和を引き起こすというのはよく知られた話で、ズームレンズの数字というよりは、生まれた時から小学6年生までの身長の推移のように見えてきます。さらには、開放F値が2.0スタート。ズームでF2スタート。異様に明るい。大三元より明るいズームレンズです。大を超えちゃうF値、もはや超三元。いや、一本で全てを兼ね揃えるから超一元。やだもう、意味わかんない。
一枚目の写真 焦点距離:85mm 絞り:F9 シャッタースピード:1/640秒 ISO感度:64 使用カメラ:Nikon Z 8
バッチリ、出来上がったのが1枚目の写真。これが今回は完璧。焦点距離を見たら85mm。35mmで広すぎた光景を、気持ちいいところまでズーミングして、そして決まったのが85mmでした。
ということで、数字的に今まで見たこともないレンズが写真家に不敵に問いかけるわけです。「ワイを使って、汝、何とるや否や?」レンズがそんなふうに写真家にチャレンジしてくる以上は、こちらも相応の覚悟で迎えねばならないわけです。ということで、「1本で全部撮ったろうやん」というのが今回のお答え。8月後半という、花火は終わるし紅葉はまだきてない時期に、このレンズを持って、地元滋賀県の「夏の終わり」を全部入りで撮ってみましたので是非ご覧ください。
静岡や山梨の人たちが困ったら富士山を撮るように、東京の人たちが困ったら雨の歌舞伎町で撮るように、京都の人たちが困ったら産寧坂や八坂の塔を撮るように、滋賀県人は困ったら琵琶湖に行くわけです。終わる夏への名残のような美しい入道雲が出ていました。
これぞ夏。この景色もあと数週間もすれば秋の鱗雲に変わるのかと思うと、名残惜しいですね。入道雲の巨大さに地球と物理のうねりを感じます。こういう地球規模の巨大なものを撮るとき、35mmという広角に入る領域はどうしても必要になります。対岸の街の小ささと雲の巨大さを、青空の下でまるっと撮るには、どうしても35mmが必要。と言いつつも、広角領域の写真はどうしても「引いてる感」が出でしまいがち。目で見ている雲のサイズ感と、写真で撮った時のサイズ感にどうしても差が出てしまいます。平たくいうと、「こんなちっちゃくねーんだけどな…」みたいな残念感。そこで、左手でズームリングを回していく。35から50,70と進む。まだ足りない。琵琶湖が下に入り、真ん中に三上山が入り、さらに入道雲の上には青が少しだけ入る領域まで伸ばす。ここ、この感じ。パシャっとな。85mmで撮った1枚目の写真が、もし70mmや75mmまでしか無い標準領域のズームだったら、レンズを途中で交換しなければなりません。広角から、標準へ、そして望遠までをカバーするレンズは、撮影中の写真家の没入を全く阻害することなく、シームレスな撮影を実現してくれます。そして左右を見渡すとまた撮りたい景色が広がっていました。
ソースや醤油のこげた匂い、チョコバナナの甘い匂い、浴衣を着た女の子たちや肩車に乗った少年の背中。当たる光はどこまでも懐かしく、美しく、シャッターを切る指が止まりません。ただ、どうしてもこういうお祭りのスナップで気になるのは肖像権の問題。令和の時代に、人の顔をがっつり取り込んでしまうのは気が引けます。人混みの中でシャッターを切っても、大抵の場合はがっつり写ってしまってボツ写真となってしまう世情ではあるものの、このレンズの明るいF値を活かし、望遠領域で撮影した写真なら、主人公以外の人たちは柔らかいボケの中に自然に溶け込んでくれます。
もちろん描写も申し分ありません。まだ焼けてないイカのヌメヌメとしたテクスチャーと、もう焼き上がったイカの匂いがこちらまで漂ってきそうな、焼けた炭水化物のテクスチャー。ぐーぐーなるお腹を我慢して一枚撮らせてもらった後、美味しい方をいただきました。
そうこうしている間に日が暮れて、街の人々が花火会場に向かっていきます。滋賀最高峰の山、伊吹山も見えています。ちょうど日が暮れて、薄く色づく空の下、山肌には太陽の最後の光が少しだけ当たっています。その美しいグラデーションを、自然のままに。何も足さない、何も引かない。Zマウントでもやはりタムロンレンズの色の出し方は好みのままです。Zとの相性、抜群です。
というわけで、夏の1日、しかも地元滋賀の最後の夏を満喫した1日を、35-150mm F2-2.8で切り取ってみました。写真を見ていただければわかるように、描写抜群にも関わらず、極めて個性的な焦点距離と、そして大三元をも上回る明るいF値。まさに全てを兼ね備える万能レンズの一つと言っても過言ではありません。こんなレンズがZ マウント用として出てきてくれたということが、嬉しいですね。
最後の2枚は滋賀ではありませんが、五山送り火と灯籠流しを手持ち撮影でどこまで耐えられるかを試した作品です。1枚目が1/10秒、2枚目は何と1/2秒。よくぞまあ耐えてくれました。夏を送り出すこれらの作品を見ていただいて、このインプレッションを終わりにします。