2019.11.14
写真家 黒田 明臣氏がタムロン SP 35mm F1.4 Di USD (Model F045)でポートレート「はじめからそこにあったもの」を撮影
写真家 黒田 明臣氏がタムロン SP 35mm F1.4 Di USD (Model F045)でポートレート「はじめからそこにあったもの」を撮影


こんにちは。TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)の使者、黒田明臣です。先日、フォトグラファーWEBマガジン ヒーコで「これが究極の35mmかもしれない。 」というタイトルで寄せさせていただいたSP 35mm F/1.4ですが、そこでは語りきれなかった感覚値を言語化することにチャレンジしようと思います。
一枚目の写真( 焦点距離:35mm 絞り:F/1.4 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:100)
まず不思議に思ったのは、最高の一枚を撮るためのレンズを作り上げることが最終目的ではないことです。これまでの私の発想では、メーカーは最高の一本を目指すこと以外目的がないと思っていました。いま思えば、視野の狭い考えでした。
自分はフォトグラファーとしていかに納得のいく一枚に到達するかという点しか見えていなかったんですね。私の勝手な解釈にすぎないのかもしれませんが、おそらくこのコンセプトには「レンズを届けて、そして撮ってもらってこそ」という思いが強く込められてきたのではないかと思います。それが、40年間も。その発想に至ったときに「ああ、なるほど」と全てに合点がいったのです。そして不覚にも感動してしまったと。
タムロンが今までに作ってきたレンズを振り返ると、持ち歩ける単焦点、できるだけ多くの人が手に入る価格、便利なズームレンズ中心のラインナップ、カタログスペックに左右されない決断など、それらすべてに一貫した姿勢が感じられます。
「写真は撮ってこそ。」どんなに良いレンズを持っていても、持ち歩いて実際に使ってもらえなければ意味がない。これはタムロンSPレンズを愛用するフォトグラファーの皆さんは写真を愛する人々であるというタムロンからの信頼ではないでしょうか。スペック偏重なレンズコレクターではなく、ほんとうに写真を愛する人たちに向けて作っているというコンセプト。さらにタムロンのことが好きになった瞬間でした。
しかし、SP 35mm F/1.4はこれまでのSPレンズとは変わった立ち位置にあると思っています。あの謙虚なタムロンが、究極の画質と言い切って、35mm という強豪ひしめく領域に足を踏み入れているということです。このやさしいコンセプトを守りながらも発表されたSP 35mm F/1.4が、究極というコピーに恥じぬ驚異的なレンズであるということは、既に皆さんご承知のとおりです。
性能的な面については、すでに本TAMRON MAGはじめ、さまざまな媒体で語られているところだと思いますが、私の印象を言葉にするのであれば「はじめからそこにあったもの」です。
なんだか当たり前の話なのですが、シャッターを押した写真を眺めてみると、「ああ、これはシャッターを押しても押さなくても本当にここにあって、今その瞬間を残せているんだ」と強く感じるんですね。
当たり前ですよね、すみません。たとえば私の作品制作プロセスにおいて、RAW現像は大きいウェイトを占めています。なので、帰宅してからパソコンでひらいてその画質をまじまじと見つめながら最終的なカラーやコントラストに調整していきます。何万回も繰り返された作業の中で、今回際立って不思議だったのはこの一枚の瞬間がほんとうに存在して、どういう気持ちでシャッターを切ったのかが鮮明に思い起こせるという点です。自分の写真を肯定できる瞬間でした。
我々がシャッターを押した一枚は、写真を撮ろうとも撮らずとも、そこにあるものです。それをどのように私たちが残すのかが問われる点。ここに写真の醍醐味があり試行錯誤するところでもあります。そんな写真の中核において「出来ることならばこのレンズで残したい」そんなふうに思わせてくれるレンズがSP 35mm F/1.4なのです。
「ああ、ほんとうにこの一瞬があった」と、あとから思い起こさせる。これはもしかしたら鑑賞者には伝わらない撮影者のエゴかもしれません。でも、写真を撮っている者に許された楽しみの一つは、きっとそんなことだと思うのです。
F/11近くまで絞った一枚は、海のさざなみや岩の質量まで感じられるような気がします。あいにくの曇りで夕陽は出なかったのですが、曇りにもかかわらず岩面のコントラストがアンダー部分でも色濃く立体感をもって残っている点。海面を超えた先にある岩場までがきちんと描写されている点など、開放F/1.4だけではなく絞って更に表現が広がるところに魅力を感じます。
またしてもモノクロの一枚。このレンズに光を通して写真にすると、ちょっとした魔法がかかったような描写になり感動すら覚えます。何故モノクロかというと、例えば圧倒的な階調と解像感の両立を楽しむのに最適だからです。今回はいくつかのカットをめずらしくモノクロで簡単に現像してみたんです。それもやはりこのレンズだからこそ。
こちらは同じ海を、今度は開放のカラーで一枚。ピント面の被写体が浮き立っているのと、思い通りのカラーに染まる階調性の高さに助けられます。また、開放で距離があるにも関わらず、岩場の立体感や波の解像感が生きている点も特筆すべきポイント。
最後の一枚。こちらが個人的にも気に入っているカットです。前景で前ボケとなっている部分が、ボケながらも階調を損なわずに絶妙なグラデーションをみせつつ、背景の雲もよくみると立体感を伴っているんですよね。曇りを曇りとして写すというのは、のっぺりとしてしまって難しい印象なのですが、ここでは主張しすぎない程度に写してくれています。
そこにあるものをそのまま写して残したいという気持ちになれたときこそ、写真をやっていてよかったなあと心底思う瞬間です。SP 35mm F/1.4は、そんな瞬間を与えてくれる一本なのです。

Akiomi Kuroda 黒田 明臣
広告・雑誌・企業のビジネス写真を中心に活動する傍ら、セミナー・ワークショップ講師としても活動中。独学で学んだ撮影技法・RAW現像・ライティングに関するテクニックを、カメラ誌・書籍・ウェブメディアにも執筆中。2017年より商業写真家として活動開始。写真と前職のウェブエンジニアリング、両方のスキルを活かしてSNS時代に何か寄与できないかと模索している。
記事で紹介された製品
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SP 35mm F/1.4 Di USD f045(Model )
「写真を愛する人に最高の一枚を届けたい」。タムロンレンズに共通するその想いを突き詰めたとき、SP 35mm F/1.4 Di USD(Model F045)のコンセプトは生まれました。SP (Superior Performance)シリーズ40周年の節目に発売されるにふさわしい最上級の描写力を持ったレンズ、それがModel F045です。込めたのは美しさへの信念。息を呑むキレ味と、やわらかなボケ味。画質へのこだわりがここに結実。意志を撮る。覚悟を写す。