秋の野原に行くと朝露をまとったトンボの姿を見ることができます。太陽がトンボの体に当たる前は変温動物のトンボは寒くて飛べないのですが、太陽がトンボの体に当たり始め体が温まると、羽ばたいて羽根に付いた朝露をふるい落として大空に飛び立ちます。作者は昆虫の生態にも詳しい方と思われます。昆虫の生態だけに詳しくても良い写真は撮れませんが、この方は逆光でトンボを狙い、背景を暗く落として朝露をまとった羽根を輝かせて際立たせています。羽根を羽ばたかせた瞬間にシャッターを切り、空中に光跡を描いている撮影技量はお見事です。とても印象的な作品で、同じく審査員の岡本先生と検討した結果、今作がグランプリを獲得しました。

ノンジャンルとネイチャーの部の両方から選出されるグランプリ、この作品に瞬時に決まりました。作者はこの瞬間を一時間、じっと待ったそうです。その甲斐あってイメージ通りの素晴らしいカットが撮れたのではないでしょうか。朝露に濡れたトンボの羽根から勢いよく飛び散る輝く水滴の軌跡が印象的です。逆光であること、背景が暗く落ちる事、どのくらいのシャッタースピードが適切なのか？　留意点はあれど、一度きりのチャンスだったと思います。狙い通りに作品に仕上げられた作者はネイチャー写真のベテランですね。美しさと躍動感あふれる生命力の両方を兼ね備えた素晴らしい作品です。